筆者は国内大手メーカーで架装作業員として従事していた経験がある。
*大手メーカー工場で働いていた。
その時に感じたのは「こりゃ不正は起こるよね」だった。
何故なら「報酬がほとんどない」から。
その割に「作業時間が辛い」し「ミスったらめちゃくちゃ言われる」。
その合わせ技で「まあ不正は起こるよね」と感じた部分を解説していきたいと思います。
▪︎工場には「感謝の報酬がない」割に「作業がキツい」
1、お客様に会わない
基礎にして最強の問題がここ。
自分がやってる作業が「誰のために」「何のために」やってるのか?という。
例えば、接客業なんかだと、頻繁に(簡単な事を)お客様に質問される。
*筆者は接客業も10年やっていた
「あれ何処にありますか?」とか、「あれ扱ってますか?」とか、「これの違いはなんですか?」などなど。
そして、それにお応えすれば「ありがとう」と言って貰える。
自分がやってる作業が「人のためになってる」と実感しやすい。
そして、それが癖づくと「お客様に分かりやすく、かつ喜んで頂ける(メリットを感じて貰える)ようにしよう」という作業の基準が出来上がる。
*陳列、配列、説明などなど。
そうすると「不正はお客様が悲しむ&不利益になるからやめよう」という「ストッパーが働く」。
しかしながら、工場勤務では「お客様に会わない」。
貰えるはずだった「ありがとう」は無くなり、作業の基準は「こちらの都合を優先となる」。
さらに今やってる作業も「ただモノを完成させて出荷させるだけの作業」となる。
面倒だから最小化して、ただ効率良くやりゃ良いだろという、内輪の考え方になっていく。
その結果が「不正」となる。
2、作業員の余裕がない
工場には「作業時間」というモノがある。
例えば「カーナビを付ける作業時間は3.5時間」など。
*完璧に正確な作業時間ではない(うろ覚え)なのでご留意下さい
この時間は「熟練作業員が良好な体調で仕上げた時の時間」で決まる。
要は「不慣れな人」…新人や、そのメーカーの車を初めて扱う人など…だと、作業時間を「確実にオーバーする」。
超熟練作業員ですら30分巻きで終わる程度しか余裕がない。
そのため、従業員で雑談したり、教え合ったり、雑用をしたりなどの「気分転換の時間がほとんどない」。
休憩時間はちゃんと設定されていて、非常に効率良くやれるようにはなっている。
*10時台に一回、12時から昼休み、15時台に一回。
しかしながら、人間はそんな機械みたいに動けない。
怠い時は怠いし、やる気が出ない時は出ない。
そんな時に雑談しながら、ちょっとずつテンションを調整していくのである。
しかしながら、ノルマを上げないとカネにならない工場ではちょっと事情が変わる。
作業は必須。
でも、気分転換はほとんどない。
結果「もっとラクしたい」という事で、不正という結果に繋がる。
3、作業は面倒なのに「ミスったらめちゃくちゃ言われる」
上記の通り、作業はめちゃくちゃ面倒。
熟練しなければ時間通りに上げられず、かと言って上げたところでお客様からのありがとうもない。
ただただ淡々と作業していく。
その中でミスというモノが出る。
間違えて配線切っちゃったり、落としちゃったりなどなど。
しかしながら、パーツはかなりの代金がかかる。
上で出したカーナビだと「約30万」。
つまり、ミスったら30万の損失が起きる。
そりゃ言われるよね、というのが一つ。
じゃあ「ミスんなきゃ良いじゃん」と思うなかれ。
「ミスは絶対に起きる」。
上述の通り、毎日万全な体調で、完璧な状態で作業ができるとは限らない。
寝不足の日もあれば、運動しすぎて辛い日もあれば、風邪気味の日もある。
そういう時でも、完璧にノーミスでやる必要がある。
そんなのは不可能なわけで、しかしながら30万のミスは許されないのである。
カーナビだけではなく、細かいパーツの取り外し時の破損や、傷や、その他諸々で、完璧な作業を求めるのは、人に求める作業ではない。
「両方の主張が真っ向から食い違うポイント」がここ。
その結果「ラクにやりたい現場」と「完璧にやりたい上層部」との齟齬が起きる。
「上にバレると面倒だから不正して通しちゃおう」は、工場でも常態的に行われている事(お客様に不都合がないレベルの「キズ隠し」や、メーカー指定より良い形での「配線取り回し」など)であって、それが前面に出てきたのが今回だったという。
*キズは上層部に報告すると「起こりやすい、注意すべきミス」として共有される。…が、パーツ代の負担+何回もキズのミスを出すと自分の評価が下がる事から「出来るだけ言わないで誤魔化した方が得」と共有されている。この辺はイジメの構造と同じ(報告すると審査、調査、監査でめちゃくちゃな手間が発生する上に評価が下がるのでメリットがない)で「構造的な問題の方が大きい」です。
▪︎自動車工場は「要求が厳しい」が「報われない」
「いい製品を作れ」という。
それを達成するためには「製作期間」「手間」という「現場の努力」が必要不可欠となる。
ダイハツの偽装問題はまさにここに該当し、要するに「審査を通りませんでしたでは許されない」という所から端を発している。
いいモノを作れと「言うのは簡単」。
作る側の現場は努力と根性でカバーする形になっている。
なんとか作れた所で、美味しい部分は上層部と販売部門が全て持っていくため、なおさらやる気がなくなる。
*金銭面と名声は上層部、感情面の満足度は販売に持っていかれる
とりあえず真面目にやって(上層部の設計図通りに作ってみて)、目標は達成できないけど品質には問題ないくらいの場合、誤魔化して通した方が上からも怒られないし、自分もラクだしで「メリットが多い」。
ここが問題の根本的な原因で、これが故に不正は無くならない。
▪︎メーカーの不正は無くならない
上述の通り、不正をするのは「構造的な問題」。
自分達がルールを守っているのは「目の前の人が喜んでくれるから」である。
その人から感謝されるから「より良い事をしようと思う」し、その人が悲しむから「不正はやめようと思う」。
しかしながら、自分が作ったモノを受け取る人と接点が全くなく、何も得る事がないとしたらどうだろうか?
いかにラクに、効率良く上げていくかに焦点がいくだろう。
普通に作業してても感謝されないし、むしろミスったら(言われた通りに出来なければ)めちゃくちゃ言われる。
じゃあ、ミスは出来るだけ隠してバレないようにした方がいいわ〜、客?知らねー会った事もないしと「普通の人なら考える」。
さらには金銭面でも報われない。
*報酬は経営層がほぼ独占し、現場では開発者くらいまでしか降りてこない。
名声上も、社長や開発者くらいで終わり、現場で頑張ってやった所で誰にも何にも評価されない。
これで「やる気が出る方が不思議なレベル」である。
なので「怒られんの面倒くさいから誤魔化て通しちゃおう」が「自然な発想」だという事がお分かりいただけると思う。
これが「根本的な問題」である。
▪︎作業員が報われる仕組みが出来ると解決する
これの根本的な問題は「作業員がお客様と会わない」という事。
本来、自分の作業の「一番報われる所」を、何故か「他人が持っていってる」という。
自分の作業でめちゃくちゃ喜んでる人がいて、自分がやってる事に意味があるんだと感じる事ができれば、不正は自然に無くなっていくと思う。
もしくは報酬。
下流工程の人は、やってる事に比べて得られるモノが少なすぎる。
「考える人」と「作る人」は、同じ時間を働いているのに酷い格差が存在する。
これが埋められれば不正は無くなるし、埋まらなければ不正は続くというシンプルなお話し。
▪︎まとめ
不正は「まあ自然だよね」と。
工場の作業は大変な割に、物理的にも感情的にも報酬がほとんどなく、誰のために何をやってるのかよく分からなくなってくる。
その割に「ミスったらめちゃくちゃ言われる」。
まあそれも当然で、数百万する車が新車からキズがついてたらクレーム必至だし、各パーツも結構な値段がするからいいよいいよとは言ってられない。
安全性や品質に問題があったら大惨事だし、現場にはしっかりした管理を求める。
しかしながらミスは出るわけで、その時に「面倒だから出来るだけ隠そう」と「思っちゃう構造」がここにある。
いい製品を作るという事は、詰め詰めで考えて、正確に仕上げる事なんだが、それは「人間がやりたい事じゃない」。
人はもっと不正確で、理不尽で、不合理な存在なので、出来るだけラクに楽しく働きたいという。
それでも人から感謝されたり、金銭面で報われたり、名声が手に入ったりするならもう少しやろうかと思うけど、そうじゃないなら「本来の形に戻るよね」と。
工場の現場はマジで下請けで報酬がないのが「根本的な問題」です。
故に「不正は無くならない」と思います。
*余談
言わずもがな、「ビッグモーターの件とは全く別の理由で起きている事」です。
あれは触れるのも気分が悪くなるくらい最悪な事件です。
完全にユーザーの不利益になる事を分かった上でやっていたという、史上最悪と言っていいくらいク◯な事件。
ビッグモーターのように悪意を持ってやった事件「ではなく」、ダイハツの場合は普通に働いてたら「自然発生的に起こる不正問題」です。
「悪意はなかった(ユーザーの不利益に繋がる問題は今の所ない)」という点で「一線を画する問題」であり、だからこそ「今後も起こり得る問題」です。
もうちょっと作業員が報われる環境になれば良いなあ。
お読みいただき、ありがとうございました。